壁面には、澁谷征司の写真集『BIRTH』『DANCE』や個展で発表された1997年以降の作品と、2011年に撮影した新作8点が展示されています。澁谷の現在までの活動を辿ることができます。
自分の写真にあらためて出会うときがあります。
写真の姿や色合いが違って見えて一瞬「誰が撮ったんだろう」と本気で思う。
なんだか無責任なようだけど悪くない瞬間です。
何度となく作品として発表してきたのに、いま自分の撮った沢山の写真を眺めながら
少しの懐かしさと書いたことも忘れていた手紙を見つけるような不思議な感慨があります。
この展示は僕の今までの作品と今回美術館のために撮りおろした作品で構成しています。
昨年の一月から箱根と美ヶ原、あわせて36回ほど通いました。
一年以上かけて撮影しているので、寒い時、暑い時、気持ちいい時、土砂降りの時、といろいろあります。
日の出を待ってもなかなか雲がどいてくれなかったり、
積もった雪に腰まで埋まりながら撮影することもありました。
自然をここまで意識した撮影は初めてだったかもしれません。
美ヶ原では一息つくためによく小さな小屋で過ごしました。
薄明かりの小屋の中から外にある空やオブジェ達の存在を感じるのは少し特別な時間でした。
会場の真ん中にある小屋はそこに由来しています。
「letter」という単語には「手紙」だけでなく「文字」という意味もあります。
文字はそれ自体が意味を持つわけではありません。
文字が指し示す向こうに意味や意味だけではない何かがあります。
写真も同じようなものではないかと僕は考えています。
何が写っているのか、どのように切り取られているのか、そして対象に向かうという行為、
それらに意味があるのではなくそれらが「指し示すもの」に
見る人が見出すべきことがあるのではないかと思います。
大切なことはこの紙の上にあるのではなく、写真と見る人との間にある。
好きなひとと手をつないで森の中を歩くとき
話しながら歩くのもいいけれど、何も言わずに歩くのもいいものだ。
こういう親密さをよく憶えておこうと思う。
そういう写真を撮りたいと思う。
どこまでが自分の手でどこまでがそうじゃないのかわからなくなるような。
2011 12月
澁谷征司