彫刻の森美術館

ICHIHASHI ORIE Exhibition 市橋織江展 2001-2013 2013 12/14 sat - 2014 3/2 sun

インタビュー

Q1:約1年前に個展のお話しをさせていただいて、いよいよ個展が始まりますが今のお気持ちは?

お話しをいただき初めて会場に立った時は、経験したことのない規模の大きさに
なかなかイメージを固めることが出来ませんでしたが、
ただシンプルに、写真が美しく見える、美しい空間を追求しようということだけは
自分の中ではっきりと目的を立てました。
全貌が見えて来るまでは不安も大きかったですが
様々な方々のお力をお借りしながらここまで来て、
自分ひとりの展示では無いと改めて感じています。
関わって下さった皆様の為にも、良い展示になればと願っています。

Q2:今回は個展の他にも、2014年のフジサンケイグループの企業カレンダーの撮影のため、野外美術館である、彫刻の森美術館と美ヶ原高原美術館の四季を、約1年間かけて撮り下ろしました。この2つの美術館の印象は?

箱根の彫刻の森は、美術館でありながらも堅苦しさがまったくなく、自然とアートを身近に体験できるところ。
来館者の人達が、皆思い思いの楽しみ方をしているのがとても印象的です。
美術館でこんなに自由な空気が流れているところはなかなかないと思います。
そしてすごく国際色の豊かなところにも驚きました。
カフェのコーヒーが美味しいです!

美ヶ原は、まさに空の上の楽園のようです。
訪れる度にまったく違う表情があって、広大な敷地と見渡す山々、
澄んだ空気に心が解放されるところです。
大吹雪だったり濃霧だったりと驚きの体験もさせてもらいましたが、
山頂から見る日の出と夏の日の抜けるような青い空にただただ感動しました。
作品も圧倒的な充実度です。

Q3:箱根という場所での開催についてはどのようにお考えでしょうか?

今まで行ってきた写真展とはちがい、気軽にふらっと立ち寄れる場所ではないことに初めは戸惑いましたが
何度も箱根に通ううち、彫刻の森美術館の豊かな自然と澄んだ空気のなかで作品を展示できることは
写真そのものだけでなく、そこで流れる時間や空間も含めて感じていただけるのだということの素晴らしさに気づきました。
皆に、温泉ついでに観に行ってみて、と言えるなんて素敵だと思います。

Q4:個展のために新作と未発表作などを含め、100点もの写真をご自身が手焼きでプリントしましたが、
手焼きによるプリントを続けている理由は?

フィルムで撮って手焼きするということが、自分にとっての作品の原点であり、
また、そうすることでしか表現出来ない味わいがあると思うからです。
自身の手焼きでは大型の作品は作れなかったりと、迫力という面で限界もありますが
手焼きしたものを生のまま見ていただくという、緊張感を無くしたくないという気持ちもあります。
生のままということは誤魔化しの効かない怖さもあり、
だからこそまた次の作品を撮る緊張感にも繋がっていると思います。

Q5:どのようなカメラとフィルムを使用していますか?
デジタルカメラは使わないのですか?

今回の作品はすべて、6x7フォーマットの中判カメラとネガフィルムで撮影しています。カメラは MAMIYA RZ67、フィルムは FUJI
PRO400、フィルムに関しては一部違う銘柄のものも入っています。
このかたちは10年以上前から何も変わらずいます。
デジタルを使用する必要性を感じたことがなかったので、
特に意識することもなく今まで続いています。

Q6:個展は、写真家として活動を始めてから現在までを集約した展示構成になっています。
展示作品の中には数年前にプリントした写真を、改めて焼き直した写真もありますが、
最初にプリントした当時と比べ、何か心境の変化というか、感じたことなどはありましたか?
また、100点を選ぶのは大変でしたか?

ひとつのネガからでも、同じ写真というのは2度と焼けませんので、焼く度にその時の自分が出てしまうのですが、
昔にくらべプリント作業で苦労することは少なくなった気がしています。
というのは、撮った後のプリント作業で写真をよく見せることよりも
撮る時にどれだけ良いネガを作れるかの方が重要だと思うようになったからです。
簡単に言うと、プリントで色々調整しなければいけない写真よりも
どんな色で焼いても良い写真は良いし強い、と感じています。

100点を選ぶことは、思ったよりも苦労しませんでした。
10年以上の中から選ぶことはもちろん無限の選択肢があったのですが、
10年分の自分がいる訳ではなく、10年を歩んだ自分がひとりいるだけなので、
結局選んでいるのは今の自分、今感じることでしかないのかもしれません。

Q7:大判プリントにも挑戦しましたが感想は?

特に一階の作品は、想像していたよりも仕上がりがとても美しく感動しました。
中二階のワイドの作品は、空間と射し込む光と写真が合わさってひとつの作品のようで
とても面白いと思います。
どちらも、色々な方の職人技や愛情があっての作品で、ひとりでは作ることの出来ないものです。
大型作品になった時自分の写真がどうみえるのか、とても不安だったのですが
仕上がりを見た時は感無量でした。

Q8:なぜ、今回のメインビジュアルに、エッフェル塔の写真を選んだか?

何点かあった候補はすべて夜の写真でした。
これまで光や空の印象的な明るい作品の多いイメージがあった(と思う)のですが
このエッファル塔は、雨の夜ということでそのイメージとは真逆の作品です。
ですが、雨でも夜でも変わらない眼で世界を見続ける感じが伝わるような気がして
この作品を選びました。

Q9:新作をウィーンで撮影しましたが、なにかテーマを決めていましたか?

いつも特別なテーマを決めずに撮影しています。
ただ、数年前から浮かんでいる「impressionnisme 印象主義」という言葉は
心の中にあったと思います。
ウィーンにはずっと惹かれるものがあったのですが、今回撮影してみて
街に流れる独特の時間のようなものを強く感じました。
それは現代とは無縁のところにあるウィーンという世界の時の流れのようで
その空気は作品にも現れているように思います。

Q10:今回の個展をどのように見てもらいたいですか? また、来館者へのメッセージなどをお願いします。

写真について難しく考えずに、それぞれの心でじんわりと感じていただけたらと思います。
そして何処かに行きたくなったり、何かを始めてみたくなったり、
少しだけ心が自由になるきっかけになれば嬉しいです。